AP_89462873室町時代に能を大成させた人物に世阿弥がいます。世阿弥は能の理論書「風姿花伝」で年齢に適した稽古の注意として7つのステージをあげています。7歳から50歳以上までの7段階に分け、その年代に合った稽古の仕方を示しています。その年代でぶつかる課題や困難をどう受け止め、解決していけばよいのか記しており、まさに段階的学習構造と言ってよいでしょう。

幼年期(7歳頃)
少年前期(12~13歳より)
少年後期(17~18歳より)
青年期(24~25歳より)
壮年前期(34~35歳より)
壮年後期(44~45歳より)
老年期(50歳以上)

特に注目したいのは幼年期です。
世阿弥は「能では7歳頃から稽古を始める。この年頃の稽古は自然にやることの中に風情があるので、稽古でも自然に出てくるものを尊重して子供の心の赴くままにさせた方がいい。良いとか悪いとか、厳しく怒ったりすると、やる気をなくしてしまう」としています。
世阿弥は、親は子供の自発的な動きに方向性を与え、導くのが良いという考え方を示しています。
そして、親があまりにも子供を縛ると、親のコピーになり親を超えていけないと警告しているのです。
この内容は600年前に書かれたものとは思えないほど的を得ていますし、当時、脳科学など無かった時代に驚くほど説得力があります。
これは能に限らずスポーツの世界でも、この年代の子供への対し方のヒントになるでしょう。

「能」という伝統芸能の世界には、他には素晴らしい考え方があります。
それは、弟子が師匠から芸を受け継ぐ方法「守破離」です。
「守」とは徹底的に師匠の芸を真似ることです。
「破」は師匠の芸のスタイルを少しずつ破って自分独自の芸風を身につけていくステージです。
「離」のステージになると完全に個性の世界になります。その人ならではの個性が備わってないと一流とは呼ばれなくなるのです。

AP_80679251スポーツの技術取得も同様です。
はじめは上手な人の真似をすることから始まり、徐々に自分らしさを織り交ぜていく。そして新たに個性的な技を生み出す。
個人のスキルのレベルアップは段階的学習に行なわれているということです。

以上のことから、スポーツにおいても段階的学習構造が重要であることはご理解いただけたと思います。しかし現代社会は遊び場の減少、交通量の増加など子供たちの外遊びの時間が激減しました。このことが基礎的な運動能力の低下につながり運動嫌いな子供を増やすことになっています。

ガラヒューの運動発達の段階とステージでいう「初歩的」「基礎的」段階をあまり踏まずに小学校に上がりスポーツ少年団で「専門的」な運動段階に入ってしまうことで個人の差が生じスポーツが嫌いになってしまうケースがあるのです。

社会環境を改善し、子供たちの遊び環境を整えることは理想ですが、簡単に変えることができないのが現状です。したがって今日、専門的な運動の前に、誰でも楽しめるオールラウンドな体力・運動能力を身につける段階での「運動への引き金」が求められているのです。